建築学科

使う人と造る人を 橋渡しする 建築の“翻訳家”。

工学部 建築学科 石橋 達勇 教授

石橋先生の専門は医療施設の建築計画学。建築計画学とは、建物を使う人の行為を鑑み、意見などもくみ取って、各種建物が適切に機能するための仕組みを設計要件として整理し、建物を造る人に伝える役割を担う分野です。医師や看護師、患者など、たくさんの人が利用する医療施設に求められる条件は複雑で多岐にわたります。「その難しさこそが醍醐味」と石橋先生は語ります。


多様な利用者の声を“翻訳”する。

——先生の研究テーマについて教えてください。

私の専門は、医療施設の建築計画学です。具体的な話の前に建築計画学という分野について少し説明しましょう。建築は基本的に一点モノで、設計者はクライアントの要望を聞き取って設計します。特に公共建築では利用者が多岐にわたります。例えば公立病院では、所有者は国や自治体でも、実際に使うのは患者や医療スタッフ、給食を作る人や掃除を担当する人など、さまざまです。一人ひとりの要望を設計者がその都度直接聞くことは現実的ではありません。そこで登場するのが建築計画学です。同類の建築物の使われ方やその建築物を使っている人のニーズをくみ取り、整理して、それを設計要件という建築の言葉に“翻訳”して造る人に伝える。建築計画学は、そんな橋渡しの役割を担います。

——そうなると、対象施設に関する知識も必要になるのでは?

その通りです。例えば手術室の場合は、どんな手術を、何人で、どんな設備を使って、どのくらいの時間をかけて行うのか。さらに、手術の前後にどんな行為が発生するのか、といったことまで理解していなければ実際の設計はできません。

ですから、建築計画学という分野では、建築そのものだけを勉強すればいいのではなく、対象となる施設の歴史や関係する法制度、機能特性までしっかりと理解しておく必要があります。

さらに、病院、学校、図書館、オフィス、集合住宅など、各種建築物ごとに求められる機能や関係する法制度などの諸条件も異なります。こうした守備範囲の広さこそが、建築計画学という分野の面白さだと私は思います。


建築×医療×経営——幅広い知識が求められる分野。

——専門である医療施設の建築計画学について教えてください。

医療施設は極めて複雑です。大きな病院を想像してみてください。外来診察室、手術室、病棟、給食の厨房など、さまざまな機能を持つ部屋が集まってできています。これらは一般的に、外来・診療・病棟・供給・管理といった機能別に分類されます。私の専門は、食事や薬剤などを扱う供給部門、いわば病院の裏方です。

例えば厨房では、衛生的かつ効率良くおいしい食事を大量に調理する必要があります。病院給食は減塩食や介護食など、患者の健康状態に応じた個別対応も多く、近年は人手不足対策として省力化も欠かせません。そうした複雑な要望・条件を考え合わせながら、円滑な給食生産を支える建築・設備の提案が求められます。

私が扱うのは厨房のほか、手術器具を洗浄・滅菌して保管する滅菌材料部と呼ばれるスペースや、薬剤を保管したり取り揃えて管理を行う空間など、医療の舞台裏です。どんなに立派な病院でも、舞台裏が機能しなければ医療は成り立ちません。外来や病棟といった表の部門を含む病院全体の人・モノの流れを理解することが、医療施設の設計には欠かせないのです。

——医療に関して、かなり専門的な知識が必要なんですね。

そうですね。でも、それだけじゃないんです。建築としての環境性能やSDGsへの配慮、日々進化する医療設備への対応も欠かせません。さらに病院経営と直結する分野なので、経営や財務、マーケット動向にも目を向ける必要があります。医療系の専門誌は必読書ですね。

——この分野が社会に与える影響については、どうお考えですか?

今後ますます重要になるでしょう。北海道はもとより全国で少子高齢化と人口減少が進み、特に郡部では患者数の減少で経営難に直面する医療施設も少なくありません。

縮小していく社会の中で、医療機関はどうあるべきか。今まで誰も経験したことのない世界に、私たちは入ろうとしています。これからは医療施設を「いかにうまく畳んでいくか(縮小・再編するか)」が問われる時代です。

医療費が減る中で、建築もそれに見合った形に見直す必要があるでしょう。さらに言えば、建築計画を担う専門家が、地域の実情と未来を見据え、地域全体の医療建築・設備の在り方を示す役割を担うこともできるはずです。

簡単ではありませんが、非常にやりがいのある仕事です。

——建築を学びたいと考える皆さんへのメッセージをお願いします。

医療建築を例にお話ししましたが、どんな建物にも、使い方や機能、安全性、快適性など、守るべきルールや基準があります。それらを無視して、ただかっこよさや美しさを追求するのは本質的とは言えません。建築を志す皆さんには、ぜひ建築をとりまく社会や地域の実情にも関心を持つ多角的な視点を大切にしてほしいと思います。

本学の建築学科には、全国・世界を舞台に研究活動を行う個性豊かな教員がそろっています。入学後は、教員だけでなく先輩や友人との出会いが、人生の大きな糧になるでしょう。建築学は理系のイメージがありますが、実は文系や他分野とも深く関わる学問です。その分、人と出会い、視野を広げるチャンスにも恵まれています。希望と志を持って建築を学ぼうとする皆さんとの出会いを楽しみにしています。